私は怒った。
ものすごく腹立たしかった。
そして同時にとても悲しくなった。
この悲しさがどこから来るのか、
それもよくわからない。
ちょっとした事件だった。
小さなこと…というよりは大きく、
かと言って、
ものすごく大事というわけでもなかった。
でも母のその一瞬の行動が、
私の怒りを爆発させた。
「もう、今日は帰るから!」
怒りながら私は言った。
実家で済ませておきたい家事はあらかた終わっていた。
夕食の支度もすっかりできているし、
作り置きのお惣菜もできた。
翌日は週に1度のゴミの収集の日なので、
家中のゴミを集め、
新聞紙は束ね、雑紙や段ボールも束ね、
カンやビンも分別して、
すぐに出せるように玄関に置いておいた。
市の高齢者のサービスで、
通常のゴミ出しが困難な家は、
週に1度、全てのゴミを玄関先で収集してくれるのだ。
母は、
「あら、何で?お茶にしましょうよ」
「何をそんなにプンプンしてるの?」
とキョトンとした様子で言う。
つい今さっきのことなど、
もう覚えていないのだ。
自分がやったことなど
これっぽっちも覚えていない。
腹立たしいこと極まりない。
何が起きたかを
説明しなければいけないことにも、
余計に腹が立った。
母は困惑して泣きそうになっていた。
今の母にとっては身に覚えがないのだから。
そして娘は怒っている。
そんな母を置いて
私は振り返りもせずに、
さっさと家を出た。
こんなことはこの約4年間一度もない。
帰り道、車の運転中、
怒りながら悶々としていた。
母がとった行動に対しての怒り、
1分前のことも忘れてしまうことへの怒り、
次々と母へのいろんな怒りが噴き出してくる。
怒りを露わにした自分にも苛立つ。
それと同時にどこからか、
悲しい気持ちも込み上げてくる。
認知症とはこういうもなのだろう。
怒りは、行き場所がなく
ぶつける場所もない。
もうなんだか自分でもよくわからない。
ぼんやり見ていた赤信号が青に変わって、
むりやり押し出されるように、
仕方なくゆっくりアクセルを踏むしかなかった。
本当は
ただ泣きたかった。
